英国では、市庁舎などの建物は三百年以上の耐久性をもつように設計されている。五十年で建て替えていたのでは税金の無駄遣いとなってしまうので、街のシンボルが消滅しないよう、耐久性のあるしっかりとしたものを建設するのが常識となっているからだ。また、教会建築や城郭なども同様である。こうした背景には、古いものほど大切に愛着をもって代々受け継ぐ文化があるのだろう。こうした価値観はヨーロッパ全体に見られるもので、人びとは社会的地位が上がるほど古い家に住み、古い家具骨董類に囲まれる暮らしを営むようになる。日本でも、「千年家」と呼ばれる民家が、西日本を中心にして各地に現存し大切に保存されている。千年家とは古い建物を尊ぶ美称で、建造された時代は、古いもので室町末期といわれている。日本にも、かつてはこのように古いものを大事にする伝統が生きていたのである。安芸の宮島にある厳島神社は、平安時代につくられた海上に建つ建物であり、日本三景の一つとして数えられている貴重な建物だ。白川郷や五箇村の合掌造りの民家とともに世界遺産に登録されている。幾多の台風や地震によって傷めつけられながらも、修復を繰り返して、現在まで人々が守りとおしてきた。これこそ、古いものを大切にする日本人本来のこころだと思う。しかし、明治以降とくに戦後は価値観が変わり、新しいものがよいとされる時代になった。古いものはゴミ扱いである。住宅についても、古い家に住むことが決して誇りに思われないのである。昭和五十年の沖縄海洋博覧会で使われたアクアポリスという鋼鉄製の巨大海洋構築物は、すっかり錆びつきスクラップとなって中国に引き渡された。海洋博の会期中の施設として設計されたのだから、機能はしっかり果たしたので問題はないが、少し寂しい気もする。
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